本研究では,質量選別赤外光解離解離分光法を用いて,有機化学反応(求核付加反応,求核置換反応)の反応中間体の構造を明らかにする。この構造に基づき,上記の有機化学反応における反応性,溶媒効果について分子レベルで明らかにすることを目的として研究を行った。 24年度は,求核置換反応で特に有名な,ハロゲンアニオンとハロゲン化メチルの間のSN2反応の反応中間体を真空中に生成させ,その構造を赤外光解離スペクトルにより明らかにした。また,この反応中間体に水分子を1個~10個程度付加させ,水和によりその反応中間体の構造がどのように変化するかを決定した。ヨウ化物イオンとヨウ化メチルとの反応中間体では,水分子が2分子存在するだけでヨウ化物イオンとヨウ化メチルの間の距離を大きく引き離すことが明らかとなった。また,この反応座標方向の反応障壁についても,水が2分子付加することにより反応障壁が正の値となり,反応を抑制することがわかった。これらの結果から,ヨウ化物イオンとヨウ化メチルのSN2反応において,水がわずか2分子存在するだけでその反応の進行を大きく阻害することが明らかとなった。本研究の結果は,ドイツ化学会のAngew. Chem. Int. Ed.において報告を行った。また,この論文についてアメリカ化学会の広報誌であるChemical & Engineering Newsにおいて紹介された。 また今年度は,これらの有機化学反応を触媒する役割のあるクラウンエーテルについても質量選別光解離分光法により研究を行った。この研究では,クラウンエーテルが金属イオンを包接した錯体を極低温冷却し,紫外~赤外光解離スペクトルを観測した。これらの結果を複数の原著論文として報告した。
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