今年度は、これまでに開発したイオンビーム源を用いたH_2O^+(水カチオン)の状態選別イオンビーム発生実験と、イオン・分子反応装置の大幅な改良を行った。ヘリウムに希釈したH_2O分子をピエゾ駆動型パルスバルブにより超音速分子線として、240-260nmの波長可変紫外光を照射することによりH_2O^+を発生させた。この領域の光学遷移は、二光子吸収によりリドベルグ状態(C状態、D状態)へ共鳴したのちイオン化する共鳴多光子遷移である。H_2O分子の対称伸縮(v1)、変角(v2)モードの励起状態を含む複数のバンドへ共鳴させたイオン化スペクトルが得られた。回転構造解析の結果、共鳴励起状態あるいはイオン化状態での解離・失活を示唆する広いスペクトル線幅および回転構造の消失が確認された。画像観測法により発生イオンの反跳速度を観測したところ、イオン性解離はなく、中性励起状態での前期解離が線幅広がりの原因であり、安定した状態選別イオンビームの発生が確認できた。 状態選別イオンビーム発生実験と並行して、前年度に見出されたイオン・分子反応装置におけるイオン輸送効率とイオン検出効率の問題点を改善する大幅な改良を行った。イオン発生点とイオンガイドの間に、引き込み電極群を追加した。ここではイオンガイド内への引き込みとともに衝突エネルギーを制御する設計とした。また、イオン検出には、質量分析分野で近年多く取り入れられている直交再加速方式を新たに採用した。いずれの改良も、電極電場およびそれによるイオントラジェクトリーの数値シミュレーションに基づいた最適化した設計とした。化学反応熱による速度広がりを持つ生成イオンを、イオンガイドと直交する方向に設置された検出器に向けて再加速する設計であり、これに対するシミュレーション上ではほぼ100%の検出効率が達成されるとの結果が得られた。
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