ソラノエクレピンAの関連化合物であり、ダイズシストセンチュウ孵化促進物質であるグリシノエクレピンAについて、不斉全合成に成功した。本合成の特長は、1)独自に開発したシクロペンテンアヌレーション法によるビシクロ[4.3.0]ノナン骨格の立体選択的構築、2)ヒドロホウ素化反応・鈴木-宮浦カップリングによる側鎖の立体選択的導入、3)7-オキサビシクロ[2.2.0]ヘプタン骨格を有する橋頭位アニオンを用いるA環導入、にある。グリシノエクレピンAの全合成は既に3例が報告されているが、上記の方法論を開発することで従来法をしのぐ効率的な全合成が達成でき、Chemistry Letters誌に発表した論文はEditors Choiceに選定された。 一方、前年度に明らかとなったソラノエクレピンAの全合成における問題点は、1)分子内Diels-Alder反応における面制御、2)混み合った環境にあるC19位水酸基の立体選択的還元、3)複数の酸素官能基の選択的変換、であった。これらの諸問題について、1)C19位水酸基の保護基と反応溶媒の検討、2)還元剤としてのDBALの採用、3)TMS基の特性を利用した水酸基の区別、の解決法を見出した結果、ソラノエクレピンAの世界初の全合成を達成した。本合成品を用いて、ジャガイモシストセンチュウの孵化活性試験を行ない、極めて低濃度の水溶液中で顕著な孵化促進活性を示すことを明らかにした。
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