研究概要 |
炭素-炭素共有結合は有機化学に於けるもっとも重要かつ基本的な概念を構築する。反応有機化学においては、「いかに巧みに炭素-炭素共有結合を形成させるか」が、合成有機化学においては、「炭素-炭素結合形成反応を、どのように利用してターゲット化合物へ導くか」が、構造有機化学においては、「ターゲット化合物の特異な構造における共有結合の局在性-非局在性」が常に中心的な研究課題として取り上げられている。すべての有機化合物は共有結合によって形作られている。それほどまでに普遍的なものでありながら、結合長と結合解離エネルギーの関係など、その本質の完全な理解の為に、解明されるべき問題が残されている。本申請課題の目的は、炭素-炭素共有結合の究極の姿を実験的に明らかにすることに挑戦し、それを手がかりに従来未確定のまま残されてきた問題を解決するとともに、共有結合の更なる可能性を探求することにある。 嵩高いアリール基が6つ置換した炭素-炭素結合を有する化合物は、非常に立体混雑した分子でありその合成には特別の工夫が必要である。21年度は、立体障害のより少ない二価カチオンを前駆体とし、長く伸びた単結合を合成の最終段階で形成させるというアプローチにより、1,1,2,2-テトラアリールピラセン誘導体10種類を合成し、還元により生じたジラジカルが結合することで、長い炭素-炭素結合が生じさせた。その構造の比較によりアリール基上の置換基が、結合長伸長に与える効果について調べた。本研究の結果は、従来信じられてきた、「軌道間相互作用による結合伸長」の考えを支持せず、逆に「伸長に対する軌道間相互作用の効果は小さい」という戸田教授やSiegel教授らの実験結果およびBaldridge教授の理論計算と一致する結果を得た。一方で、21年度中に計画していた研究の一部である、ジラジカル性の高温状態での発現の可能性について、22年度により詳細な理論的アプローチを行った。ドイツHerges教授らとの共同研究によれば、結合切断された3重項ジラジカル状態が準安定状態として存在し、過熱により結合切断が起これば、熱によるスピンクロスオーバー挙動が見られる可能性が示された。
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