先に我々は、ジスピロアクリダン型ピラセンが、非イオン性有機化合物としては、世界一長いC-C結合[1.791(3)Å(413K)]を有していることを見出した。またスピロ骨格を持たないテトラアリールピラセン類についても、合成した数種全ての置換体で、1.7Åを超える極めて長いC-C結合を持つことがわかった。しかし直接立体障害の増減に関与しないアリール基上の4位の置換基の種類によっても、結合長が大きく変化した。アリール基をすべて同じくする対称型テトラアリールピラセンを用いた研究では、置換基の違いによる結合長の変化が、どのような効果によるものかを明らかにできなかったため今年度は、本研究では非対称にアリール基が導入された誘導体についての検討を進め3種類の非対称二置換体の合成を行った。そのうち、アニシル基とトリル基、及びアニシル基とフェニル基を持つ2つについて、低温X線構造解析により十分な精度で結合長を決定した。前者の中心部分の結合長は1.738(3)Åであることが示された。 この非対称体での値は、テトラトリル体、テトラアニシル体のいずれよりも中心のC-C結合が長いこと示していた。一方で、もう1つの非対称体の中心部分の結合長は1.714(2)Åであり、どちらの対称化合物(テトラフェニル体、テトラアニシル体)よりも中心のC-C結合が短いことが明らかとなった。このように、非対称化合物の結合長が対応する2種類の対称化合物のどちらよりも長くなる場合やどちらよりも短くなる場合があることは、結晶中での結合長が、アリール基上の置換基の電子的効果によって決定付けられていないことを示す重要な結果である。
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