研究概要 |
マイトトキシン(MTX)は,年間5万人以上の中毒患者が発生する世界最大規模の魚介類による食中毒シガテラの原因物質のひとつであり,構造決定されている二次代謝産物の中で最大の分子量および最強の毒性を有する。MTXは,極微量で細胞内のCa^<2+>イオンの濃度を上昇させることが知られているが,作用標的分子や活性発現機構は明らかになっていない。その理由として,天然から得られる化合物が極微量であること,非特異的吸着が強いことなどが挙げられる。本研究では,分子レベルでの作用機構を解明するために,MTXの作用標的分子を同定することを目的とした。すなわち有機合成化学的手法によってマイトトキシンの部分構造を化学合成し,光親和性標識化した分子プローブを調製して作用標的タンパク質の同定を行うために,MTXの疎水性部分に相当するW-F'環の化学合成を検討した。WXYZ環部とC'D'E'F環部を本研究者が開発したα-シアノエーテルを経由する二環構築型合成法(α-シアノエーテル法)を用いて収束的に合成する計画を立て,平成23年度は,C'D'E'F環部の合成を検討した。まず,C'環部からヨウ化サマリウムを用いた還元的環化反応によりD'E環部を順次構築し,C'D'E'環部の合成を行った。次に,ビシナルジメチル基を有する側鎖部分の合成を検討した。不斉補助基を用いたジアステレオ選択的反応によりビシナルジメチル基を導入した基質に対し,アルキンの付加,野依不斉水素移動反応などを経由して,側鎖部分に相当するヨードオレフィンの合成を完了した。C'D'E'環部と側鎖部分を鈴木-宮浦反応によって連結することを試みたが,標準的な条件では反応がまったく進行しなかった。そこで,E'環部とのカップリングの条件を種々検討した結果,配位子としてSPhosを用いることで,反応が進行することを初めて見出した。
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