研究概要 |
1.水溶液中で有機物を高効率・高選択的に酸化する触媒系の構築を行った。トリス(2-ピリジルメチル)アミン(TPA)及びその類縁ピリジルアミンを配位子とし、類似の配位環境を有する3種類のルテニウム(II)-アクア錯体を合成し、そのキャラクタリゼーションを行った。それぞれのRu(II)-アクア錯体を(NH4)2[Ce(NO3)6](CAN)又は定電位電解により対応するルテニウム(IV)-オキソ錯体へと酸化し、そのキャラクタリゼーションを行った。その結果、前例のない低スピン状態(S=0)にあるRu(IV)-オキソ錯体の生成を見いだした。それらを酸化活性種とする、緩衝水溶液中における有機化合物の触媒的酸化反応をおこなったところ、各錯体の触媒活性には顕著な差は認められなかった。さらに、それら3種類のオキソ錯体による1-プロパノールの量論的酸化反応について、速度論的解析を行った。その結果、Ru(IV)-オキソ錯体と1-プロパノールが錯体(アダクト)を形成した後、酸化反応が進行することがわかった。さらに、その酸化反応の1次速度定数の温度依存性から活性化パラメータを決定した。活性化パラメータは3種類のRu(IV)-オキソ錯体でほとんど変わらず、スピン状態の違いによらず、基質酸化反応がほとんど同じ遷移状態を経由して進行することが明らかとなった。 2.上記3種類のRu(II)-アクア錯体を触媒とする、酸性緩衝水溶液中における有機化合物の高効率・高選択的光酸化触媒反応系の構築を行った。ここでは、[Ru(bpy)3]2+(bpy=2,2'-ビピリジン)を光増感剤、[CoCl(NH3)5]2+を電子受容体として用いた。380nm以上の可視光照射下において、ベンジルアルコール誘導体、オレフィン類、エチルベンゼン誘導体、アルコール類などを極めて効率よく酸化し、1種類の生成物のみを与える選択性を示した。酸化活性種は、電子移動酸化で得られるRu(IV)-オキソ錯体と同じであった。また、Ru(IV)-オキソ錯体生成過程及び基質酸化過程の量子収率を決定した。さらに、触媒回転速度は触媒濃度に依存し、触媒濃度希釈条件下での4-メチルベンジルアルコールの酸化反応において、1時間あたり最大14,000回の触媒回転速度を示した。
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