研究計画調書に則し、白金錯体を水素発生触媒とした新規な単一分子光水素発生デバイスの合成と機能評価を展開した結果、以下に述べる幾つかの価値ある研究成果を得た。従来の光増感部-触媒部の2機能型デバイスに代え、電子供与部-光増感部-触媒部の3機能型デバイスの合成と機能評価に成功した。この研究では、電荷分離状態の延命化には成功したものの、光水素生成効率の高効率化には至らなかった。その要因が、マーカス逆転領域における電子移動速度の低下に由来することを突き止めた。一方、これまでの研究では、単一の光増感部に対して一つの触媒部位を導入した1:1型の系のみについて検討してきたが、本年度は、2つ、または、3つの触媒部を導入した1:2型及び1:3型のデバイスの合成と機能評価にも成功した。興味深いことに、触媒部位数の増加に伴い、水素生成効率が劇的に向上することを見出した。さらに、トリス(ビピリジン)ルテニウム(II)を光増感部に持たない白金錯体触媒部における金属-配位子電荷移動吸収帯に用いた2機能集約型の白金単核及び二核錯体の合成と機能評価にも成功した。[Pt(trpy)Cl]^+錯体に類似の構造を有する二種の白金錯体に関し、EDTA共存下における光電子貯蔵挙動ならびに光水素生成挙動が認められた。一つは、[Pt(trpy)Cl]^+にN-methylpyridinium基を導入したメタロビオローゲン白金錯体であり、高い単一分子光水素生成挙動を示すと同時に、助触媒としての白金(II)錯体の添加による光水素生成能の向上が認められた。もう一つの化合物は、Pt(trpy)ユニットをピリジンチオラトで架橋した二核錯体であり、^3MMLCT励起状態からの電子移動過程を経由した水素生成反応が促進されることを明らかにした。
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