研究概要 |
本研究は,陽電子マイクロビーム化を達成し,原子空孔二次元分布計測およびそれによる材料科学研究への展開を図ることを目的とした。平成22年度までで,陽電子のマイクロビーム化,原子空孔二次元分布計測における原理的な空間分解能の達成を果たすことができた。最終年度である本年は,それによる材料科学研究への応用を試みた。 まず純鉄の水素脆化挙動解明へ応用した。陽電子寿命測定によるバルク分析では,水素チャージ試料は未チャージ試料よりも平均寿命が12ps程度長く,空孔クラスターのサイズ・量ともに増大するという結果が報告されている。未チャージ試料の破断部周辺の本法による結果は,破断部ごく近傍のみがS値が高く,生成した空孔クラスターが破断部近傍に限定されていることがわかる。一方で水素チャージ試料では破断部に向けて1500μmの範囲でS値が単調に増加し,空孔クラスターの形成が広範囲に観察された。この結果は,水素による空孔クラスター形成の安定化,とくに変形が進展したところでの加速度的な形成を示唆したものとして非常に興味深い。 次に、シリカガラスの空隙構造の変化を検出することに応用した。破壊において,Si-O-Siネットワーク構造に大きな圧縮応力が働く。以前,ポジトロニウムがガラス中のネットワーク空隙を検出し,空隙のサイズや状態に関する情報を引き出す可能性を示した。本手法を用いることにより,シリカガラスに圧縮応力を付与するとポジトロニウムの形成が抑制され,常磁性等の構造欠陥を検出できることを初めて実証した。 今後,本手法を活用し,上記のような欠陥のかかわる未解明課題の解決に資する。
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