研究概要 |
微量元素がタンパク質などの生体分子とどのように協調して生命システムを維持しているのかをゲノムスケール、細胞レベルで調査することを目的として、本年度は、金属酵素・金属タンパク質を探索するためのハイフネーテッド分析システムを構築し、その実用可能性をヒト血清タンパク質の分析を通して評価した。また、重金属暴露によるサケ受精卵の発育影響に関する研究を行うために、飼育条件の最適化を図り、銅、亜鉛、カドミウムに暴露させたサケ受精卵、数百サンプルを収集した。一方、1細胞分析を目指して、細胞直接導入/誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を試作・評価した。主な成果を以下にまとめる。 1. capillary HPLC/ICP-MSシステムの構築とヒト血清中金属タンパク質探索への応用 タンパク質に結合している金属イオンの多くは、安定度定数が低いため、分析操作の過程においてタンパク質から脱離する。本実験では、金属イオンの脱離が起こりにくい陰イオン交換モードのカラムの作製と分離条件の最適化・高速化を検討した。モノリスカラム技術を駆使して、カラムサイズ、交換容量の最適化を図り、温和な移動相条件下、市販カラムと同等ないしそれ以上の分離能を有する陰イオン交換モノリスの作製に成功した。また、この分離装置の後段にICP-MSを接続してヒト血清タンパク質の元素選択的検出を試みたところ、セルロプラスミンに結合した銅、トランスフェリンに結合した鉄等のピークを明瞭に観察できた他、様々な微量金属元素が結合している多くのタンパク質・ペプチドの存在を明らかにすることができた。一般にICP-MSはESI-MSにような有機質量分析法よりも感度が2~3桁高いため、プロテオーム解析の新たな切り口として期待される。 2. 細胞直接導入/ICP-MSの試作と酵母細胞の多元素分析 細胞分散液を効率よく輸送できるインターフェースデバイスの開発、多元素同時計測が可能な飛行時間型の質量分析計の採用、スキャンニング計測時間の最適化により、細胞1個でMg, P, Ca, Fe, Cu, Zn等の必須微量元素を同時定量することに成功した。
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