研究概要 |
個体の発生や恒常性の維持に不可欠な微量元素をゲノムスケール、細胞レベルで調査・探索することを目的として、本年度はこれまでに開発・改良を重ねてきた微量元素分析技術を駆使して、1)サケ受精卵の発生過程における胚中微量元素の変動解析、2)大腸菌、ユーグレナ1細胞に含まれる微量元素の濃度(原子数)マップの作成を行った。主な成果を以下にまとめる。 1.サケ受精卵の発生過程における胚・仔魚中微量元素の網羅的な変動解析 数mg程度の微小な胚部分を摘出し、マイクロ波酸分解後、ICP-MSにて網羅的な元素分析を実施し、Na,Mg,K,Ca等の常量元素からCo,Mo,Ni,Cd,U等の超微量元素に至るまで、合わせて47元素の定量に成功した。受精後稚魚期まで経時的な濃度変化を追跡したところ、Zn,Fe,Se,Cuの必須微量元素が発生の初期の段階において極めて高濃度で存在することが確認された。また、卵黄嚢から胚への元素の移行率を調査したところ、10%以下のものから100%近いものまで実に様々であり、さらに取り込まれる時期にも元素間で違いが見られた。これらの結果から、胚発生過程において元素が選択的に取り込まれていることが強く示唆された。また、重金属曝露による受精卵の発育影響を調査したところ、1ppmのCu,Zn,Pbに暴露させた受精卵では、死卵が増え、成長に遅れが見られた。この受精卵の内液を取り出し、HPLC/ICP-MSにより化学形態別分析を実施したところ、メタロチオネイン様のタンパク質の合成が示唆される結果が得られた。 2.大腸菌、ユーグレナ1細胞に含まれる微量元素の濃度(元素数)マップの作成 飼育が容易でゲノム解析の進んでいる大腸菌(原核生物)、および最近注目を集めているユーグレナ(真核生物)を分析対象として選び、その網羅的な元素分析を実施し、1細胞に含まれる元素の種類と個数を三次元周期表として公開した。元素が生体に及ぼす影響は、共存する他の成分との相互作用や相乗作用、あるいは拮抗作用により変化すると考えられる。今回の元素存在量マップは、元素の必須性や生命システムを理解する上で貴重な基礎データとして活用されることが期待される。
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