Goodwin-Lions型のPh-BINAN-H-Pyはsp^2N/sp^3NH混合系のN4四座配位子として正八面体錯体の構造・反応性制御の観点から注目される。平成22年度の交付申請書に記載のように、これまでに本配位子とRuπアリル錯体との混合系が芳香族ケトン類の高エナンチオ選択的水素化触媒として有効であることを示してきた。この不斉水素化の機構を解明することを目的として、核磁気共鳴分光実験、速度論実験、速度式解析を行った。[アセトフェノン]=2M、[触媒]=[t-C_4H_9OK]=2mM、2-プロパノール溶媒、無触媒熟成、50気圧、25度、12時間後には、96.5:3.5の鏡像面選択性で(R)-1-フェニルエタノールとS体が定量的に生成する。反応温度を50度にすれば、反応は2時間で完結する。触媒前駆体と配位子を混合してもNMRで観測できる量の錯体は形成しない。しかし、この混合系は高い触媒活性を示す。反応系を全反射式赤外線吸収スペクトル測定によって基質濃度の経時変化を追跡した結果、時間-基質変換率曲線は、反応速度が時間とともに指数関数的に上昇することが明らかとなった。触媒生成段階(k_0)および水素化段階(k_2)の速度定数、基質阻害段階の平衡定数(Ki)を考慮して、速度式解析とシミュレーション実験からこの速度の関係を解析したところ、例えば、k_0、k_2、Kiがそれぞれ、2.2×10^<-4>、9.76×10^6、21.5の時にほぼ一致する値を示した。注意は要するが、触媒サイクル内の律速段階の速度は活性種発生速度の約11桁倍速く、20程度の平衡定数をもって基質阻害が起きていると考えることができる。触媒サイクルの定量的考察を深めるためのシミュレーションシステムを構築することができた。
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