本研究計画では、高励起状態からのみ進行する化学反応を検討することで分子素子へ展開可能な光機能性分子の創製を図る。高励起状態の生成は、短波長レーザー照射、照射間隔および照射波長を制御したフェムト秒レーザーを光機能分子に多段階照射(マルチレーザー照射)または高強度フェムト秒レーザー照射による多光子吸収(シングルレーザー照射)など種々の光照射法により制御できるため、高励起状態生成がきっかけ(トリガー)となり機能発現する分子系が構築可能であると予想される。さらに超高速分光を適用することで、高励起状態を経た反応プロセスを直接観測し、さらに新たなる分子素子の創出を目的とする。 今年度においては機能性分子のラジカルカチオン励起状態の直接観察および寿命の導出を行った。具体的には、オリゴチオフェン等は良好な電子供与性を有し、さらにそのラジカルカチオンは中性状態とは異なる吸収帯を近赤外領域に有することから、これを選択的に励起することができることより、ラジカルカチオン励起状態の検討に適している。ラジカルカチオン励起状態からのホール移動を検討することを目的として、オリゴチオフェンにホールアクセプターとしてナフタレンを結合した分子を合成し、化学的酸化の後その吸収帯をフェムト秒レーザーで励起し過渡吸収測定を行った。ナフタレンを結合した分子においては、ラジカルカチオン励起状態に帰属される吸収帯が短寿命化したことより、ラジカルカチオン励起状態を経たホール移動が示唆された。
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