本研究計画は、高励起状態からのみ進行する化学反応を検討することで分子素子への展開を図る。高励起状態の生成は、照射間隔および照射波長を制御したフェムト秒レーザーを光機能分子に多段階照射(マルチレーザー照射)または高強度フェムト秒レーザー照射による多光子吸収(シングルレーザー照射)により制御できるため、高励起状態生成がきっかけ(トリガー)となり機能発現する分子系が構築可能であると予想される。今年度は以下の研究を行い新たな知見を得た。 (1)シングルレーザー励起により高励起状態を形成する分子系の検討。高励起状態からの電荷分離等のダイナミクスを検討するためには高励起状態からの発光であるS2蛍光の測定が重要であるが、S2蛍光を生じる分子はピレン類やポルフィリン類に限られていた。従って新たな超分子系を構築することを目的として、S2蛍光性分子を検討したところ、BODIPY類がS2蛍光を生じることを確認した。実際、S2蛍光寿命は数ピコ秒のオーダーであることを確認した。さらにフェムト秒過渡吸収スペクトル測定より、S2励起した場合の内部転換の速度の見積もりを行い、S2からの緩和過程の詳細を明らかにした。 (2)ラジカルカチオン励起状態からの電荷分離過程の検討。オリゴチオフェンとアクセプターをアミド基で結合することにより数ピコ秒オーダーの高速電子移動が起こることを見出しているが、今年度においては化学酸化により生じたオリゴチオフェンのラジカルカチオンに対し、選択的フェムト秒レーザー照射を行うことにより、ラジカルカチオン励起状態が寄与するホール移動過程の解明を行った。ラジカルカチオンの吸収帯の回復速度はホールアクセプターの酸化電位に依存したことより、ラジカルカチオン励起状態からのホール移動が示唆された。また、その自由エネルギー変化依存性より再配向エネルギーの導出を行った。
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