ヘムオキシゲナーゼ(HO)は、3段階の酸素添加反応によってヘム(鉄-ポルフィリン錯体)を鉄イオン・一酸化炭素(CO)・ビリベルジンに分解する酵素である。HO反応は生理的に重要なだけでなく、その特異な反応のメカニズムにも興味が持たれている。本研究では、ヘム分解の主な律速段階に当たるベルドヘム反応に焦点を絞り、X線結晶構造解析・各種分光測定による完全解明を目的とする。また、HO反応において我々が独自に発見した新規ヘム代謝産物の生成機序の確立をも目標とする。 まず通常のベルドヘム反応の解明を目指し、ベルドヘム-HO複合体と過酸化水素との反応生成物についてMossbauer分光測定を行った。反応条件の改善などにより、Fe(IV)錯体の生成がより明瞭に確認された。次年度には迅速凍結法による生成物の経時変化の測定を計画しており、大量の同位体ラベルサンプルの調製など、その準備を本年度中に終えた。また、ベルドヘム複合体と酸素の反応生成物解析に向け、"低温酸素反応システム"を開発した。本システムでは酵素の薄膜化と添加剤の工夫により、-100℃という低温下においても酵素と酸素を2分以内に反応させることができ、その反応過程の分光測定をも可能にしている。次年度には本システムをさらに改良し、実際の酵素反応への応用を進める予定である。上記の研究はC末端の膜結合部位を欠損させた可溶化型HOを用いて行っているが、全長の膜結合型HOを大量調製することにも本年度に成功しており、より天然に近い状態での研究も進める予定である。さらに、従来型HOとは異なるファミリーに属する結核菌由来のヘム分解酵素(MhuD)の研究も進め、その活性中心構造を共鳴ラマンスペクトルの測定などにより解明した。
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