研究概要 |
ニトリルヒドラターゼ(NHase)はアクリルアミドの工業生産に利用される重要な酵素であるが、その触媒反応機構は未解明である。本研究では、NHaseと類縁酵素であるチオシアネート加水分解酵素(SCNase)を材料に、その触媒反応機構と翻訳後修飾を含む金属触媒中心形成機構を明らかにすることを研究目的とする。今年度は以下の3つの研究を行った。1.NHase活性を1/1000程度に低下させたβR56K変異体を用いて、基質であるtert-butylnitrile水和反応の時間分割構造解析を行った。その結果、反応開始後3時間の測定データにおいて、酵素基質複合体と思われる構造を得ることに成功した。2.SCNase基質ポケットに存在する2つのアルギニン残基βArg90,γArg136をNHaseにおいて相当するアミノ酸残基であるフェニルアラニンとトリプトファンに置換した変異体を作製し、それらの置換の影響を調べた。いずれの変異体もSCNase活性を消失し、NHase活性を示した。γR136W変異体の結晶構造を決定したところ、基質ポケット表面の正電荷が大きく減少し、基質ポケットの容積が増大していた。これらの結果より、NHaseとSCNaseの触媒機構は本質的に同じであり、基質ポケットの電荷とサイズが基質選択性の決定に重要であることが示唆された。3.SCNase成熟化機構に関しては、金属結合サブユニットであるγと活性化タンパク質P15K複合体にコバルトを結合させたところ、複合体の解離は起こらないことがわかった。この結果は、γ-P15K複合体の解離を引き起こすドライビングフォースは金属の結合ではないことを示している。
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