核酸を配列特異的に認識する人工核酸の各種複合体化等を基盤として、二重鎖、三重鎖、四重鎖核酸といった核酸の高次構造を高度に制御することで、生きた細胞内での遺伝子発現の強制的促進をも含めた真の遺伝子発現制御法の開発を目指し、23年度は以下の内容を検討した。 遺伝子発現を制御している可能性があるグアニン四重鎖形成を制御する新しい手法の確立を目指し、まず、22年度までに合成したシトシン塩基との塩基対は形成するがグアニン四重鎖を形成しない新たな架橋型人工核酸BNAの核酸塩基認識能を詳細に評価した。その結果、核酸塩基認識能を高度に保持しつつも、その二重鎖形成能が予想に反して低いことが明らかとなった。そこで精密な分子軌道計算により原因と推定された分子内電子反発を低減する新たなBNAグアニン類縁体を設計・合成し、高い二重鎖形成能を付与することに成功した。また、22年度まで利用してきたアクリジン誘導体等の機能性分子の核酸複合体化に有用な硫黄原子を坦持した人工核酸を開発した他、構造制御のスイッチ機能を持つ人工核酸を創出し、それら構造特性を評価した。さらに、グアニンとは塩基対を形成せずに、シトシン四重鎖を形成し得るオリゴ人工核酸を合成した。これらオリゴ核酸類の構造特性を各種分光法により評価し、生理的条件下において様々な核酸高次構造の形成を促進出来る可能性を示した。一方で、蛍光タンパク質をレポーター遺伝子とした非侵襲的遺伝子発現制御評価系をトランジェントな系として構築する事に成功した。さらにこの評価系を用いることで、本来発現する遺伝子(蛍光タンパク質)とは異なる遺伝子の発現を人工核酸により誘起できることを示した。 これら一連の研究成果は、我々が日々新たな創製を重ねている人工核酸を用いることで、抑制によるこれまでの遺伝子発現制御法を脱却し、真の制御法を構築できることを示唆する非常に大きな前進である。
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