研究概要 |
タンパク質、ペプチドなどの生体分子の立体構造を高い空間分解能と時間分解能で制御できれば、様々な利用法があり、特に、生体内計測分析や医療への利用が期待できる。平成24年度は、[NiFe]ヒドロゲナーゼのNi-Fe活性部位における水素活性化触媒反応機構の解明のため、本酵素の不活性酸化型の一つであるNi-A型の光反応性をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)と電子常磁性共鳴法(EPR)を用いて調べた。Ni-A型にレーザー光(457.9-514.5nm)を室温で照射するとFT-IRスペクトルが変化し、光反応性があることが判明した。光照射を停止するとFT-IRスペクトルの変化は観測されなくなったが、再度、光照射を開始すると同様のスペクトル変化が観測され、光反応は可逆的であることが判明した。Ni-A型のESRスペクトルも可視光照射により変化し、光照射を停止するとスペクトル変化は観測されなくなった。光照射によって生じた反応生成種のCO伸縮振動(ν(CO))は1971 cm-1、CN-伸縮振動(ν(CN-))は2086と2098 cm-1に観測された。ESRスペクトルのg値は2.29, 2.24, 2.02と求まり、光照射により新たな種が生成したと考えられ、Ni-AL型と名付けた。Ni-AL型のg値はNi-A型のg値(2.30, 2.23, 2.01)に非常に近いことから、Ni原子の電子状態はNi-A型と類似していると推測された。一方、Ni-AL型のν(CN-)振動数はNi-A型の2084と2094 cm-1からあまり変化しなかったが、ν(CO)振動数はNi-A型の1956 cm-1から15 cm-1高波数シフトしたことより、Ni-AL型はNi-A型に比べてFe原子に対してCOの反対側に位置する2原子分子配位子からFe原子への電子供与が弱くなったことが示唆された。
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