研究課題
ヘモグロビン(Hb)は、アロステリック効果を持つ典型的な蛋白質として最もよく研究されており、我々もこれまで共鳴ラマン分光法を用いて蛋白からヘムへの張力とサブユニット問相互作用との関係,つまり四次構造の構造化学的詳細を明らかにしてきた.本研究では、ヘム鉄が還元されないために酸素が結合できないサブユニットを2個もつヒトヘモグロビンMについて、共鳴ラマン分光法で調べた.α或はβサブユニットの近位(F8)或は遠位(E7)ヒスチジンがチロシンに置換している4種のHb Mのうちで、HbM Saskatoonのみが6配位構造を取り、それが酵素で容易に還元される事が、他のHb Mと著しく異なっている.その理由を明らかにするために、全てのHb MにおけるE7及びF8チロシンのイオン化状態を紫外共鳴ラマン分光法で調べ、又可視共鳴ラマン分光法でFe-0(Tyr)結合の伸縮振動を観測した。Hb M Iwate (αF8Tyr), M Boston (αE7Tyr)及びM Hyde Park (RF8Tyr)は、イオン化したチロシンによる紫外共鳴ラマンバンドを2本1603cm^<-1> (Y8a')と11667cm^<-1> (Y9a')に示したが、HbM Saskatoonはそれらに加えて中性チロシンのバンドを1620と1175cm^<-1>に与えた.Hb M Saskatoonのヘムに結合しているチロシンには2種の状態があるという証拠は、可視共鳴ラマン法でも得られた。これらの結果は、Hb M Saskatoonのヘム鉄に配位したRE7Tyrが中性状態とイオン化状態の平衡にある事を示す。その事が、酵素で容易に還元される理由であろうと思われる.Hb Mと正常ヒトHbとの紫外共鳴ラマンスペクトルの比較から、metHb M SaskatoonとmetHb M Hyde Parkはヒト正常metHbと同様に四次構造としてはR(relaxed)状態にあるが、metHb M Iwate, metHb M Boston,及びmetHb M MilwaukeeはT(tense)状態に置かれている事が明らかになった。
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