研究概要 |
蛋白質のアロステリック効果は、活性点以外の所に小分子が結合する事によって活性点の反応性を変える現象であるが、それを構造化学の言葉で記述する事が本研究の目的である。微小な構造変化でそれを実現している蛋白質の実態を解明する事は、蛋白質機能発現の理解に必須である。本研究では、基本分子としてヘモグロビン(Hb)、その応用材料としてガスセンサー蛋白と呼吸酵素を取り上げ、小分子としてはO_2、CO、NOに注目した。成果は以下の通りである。1)Hbのリガンド結合による四次構造の変化の定量化;Hbはアロステリック効果を示す典型的な分子である。これ迄にMWCモデルとKNFモデルが提案されているが、X線結晶解析ではいずれが正しいか決められない。両モデルの違いは2個リガンドの結合した中間状態ではっきり見えるはずである。正常なHbでは協同効果のためにその中間体を純粋に得られない。そこで本研究では、金属、原子価およびリガンドハイブリッドHbを用いて、2個リガンドの結合した安定状態を調製し、その紫外共鳴ラマンスペクトルを測定して、TrpとTyr残基のサブユニット間相互作用の様子を、各残基毎に決め、相互作用があるものとないもののスペクトル強度の比から、四次構造を定量的に評価する方法を見つけ、それをJ.Am.Chem.Soc.に発表した。2)O_2センサー蛋白,DOS-Ec,の構造ダイナミクス;大腸菌のDOS蛋白質の時間分解紫外共鳴ラマン散乱を測定し、部位特異的アミノ酸置換体を用いて元のアミノ酸残基のスペクトルを抽出した。O_2,CO,NOを結合させた時の変化より、シグナル伝達の経路を決めるとともに、そのダイナミクスを明らかにした。3)呼吸酵素の構造ダイナミクス;一酸化炭素(CO)結合型酵素のCO光解離後の蛋白質構造ダイナミクスを時間分解可視共鳴ラマン分光法により調べた。2つのヘムの協同的動きと酸素還元部位の中間的コンフォメーションの存在を明らかにした。
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