有機エレクトロルミネッセンス(EL)では、電子準位の異なる有機薄膜を積層したり、三重項発光中心を導入することで発光量子効率を飛躍的に向上させることができる。真空蒸着により素子内の成分分布を制御できる低分子系有機ELでは高効率化材料設計指針の解明が進んでいるが、湿式プロセスによる高分子半導体を用いたEL素子では、構造制御の難しさからこれらの解明はほとんど進んでいない。本研究では湿式プロセスでの有機ELの高性能化指針を得ることを目的とし、有機半導体の膜厚方向の成分分布制御による三重項発光高分子ELの高効率化指針を得ることをている。21年度では湿式プロセスでの有機層の積層構造構築について検討を行った。湿式プロセスでは通常加熱処理によって下層を不溶化し上層を成膜するという手順がとられるが、加熱処理によってガラス転移点以上の温度にさらされた有機半導体は性能劣化がしばしば観測され、キャリア閉じ込めが不十分となる。これは素子効率を低下させるだけでなく、キャリアバランスの解析を困難にし、素子動作メカニズムの詳細な検討を阻害する。我々はEvaporative Spray Deposition from Ultradilute Solution (ESDUS)法を用いることにより加熱処理なしでの積層構造の構築できることを見いだし、ガラス転移点以上に加熱しなければ性能劣化が起こらず、電力効率が約4倍に向上することを示した。今後、三重項発光材料を含む様々な材料の組み合わせによりキャリアバランスの詳細な解析が可能となった。
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