有機エレクトロルミネッセンス(EL)では、電子準位の異なる有機薄膜を積層したり、三重項発光中心を導入することで発光量子効率を飛躍的に向上させることができる。真空蒸着により素子内の成分分布を制御できる低分子系有機ELでは高効率化材料設計指針の解明が進んでいるが、湿式プロセスによる高分子半導体を用いたEL素子では、構造制御の難しさからこれらの解明はほとんど進んでいない。本研究では湿式プロセスでの有機ELの高性能化指針を得ることを目的とし、超希薄溶液濃縮スプレイ(ESDUS)法による有機半導体の膜厚方向の成分分布制御と三重項発光高分子ELの高効率化指針を得ることを目指す。22年度では高分子ELをESDUS法で作成した場合にスピンコート法に比較して量子収率が顕著に高くなる原因について調査した。分光解析の結果、気相での濃縮課程で高分子が最適構造である伸びきり構造をとるため、消光点となるキンクが減少し、量子収率が向上することがわかった。また、低分子ドーパント濃度を膜厚方向に精密に制御する技術を確立するため、ポリチオフェンにフラーレン誘導体をドープした薄膜について、混合比を膜厚方向に変化させた薄膜を作成、成分分布が設計通りになっていることを、吸収スペクトルの膜厚依存性、電子顕微鏡による断面観察などから明らかにした。この薄膜は電子デバイス応用が可能な品質であることを太陽電池を作成することで示した。今後、三重項発光材料を含む様々な材料の組み合わせによりキャリアバランスの詳細な解析が可能となった。
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