研究課題
本年度は、生体高分子をキラル反応場とする超分子不斉光化学反応における不斉源効率の飛躍的な向上を目指し、キラル生体高分子ナノバイオリアクターの触媒的機能付与を実現する光反応基質の検討を中心に研究を推進した。具体的には、上記条件を満足し得る光反応基質として2-ヒドロキシアントラセン(HA)に着目し基質合成ならびにその光反応性について検討を行った。意外にもこれまでHAの光環化二量化反応に関する報告はなかった。種々の実験条件の検討・最適化を行い、中程度の収率でHAの合成法の確立に成功した。次に得られたHAの光反応性について検討した結果、光反応効率は高くはないもののAC同様、光照射により二量化反応が起こり、4種類の[4+4]環化二量体形成が確認された。しかし、HA、光二量体とも酸化されやすく、ACに比較して大気下での安定に劣る事も明らかとなった。次にHAの超分子不斉光反応の不斉反応場としては、アミノ酸配列はもちろんのこと、X線構造解析による立体構造が明らかとされており、また様々な基質との結合挙動について多く報告されているヒト血清アルブミン(HSA)を用い、HAとHSAの相互作用を検討した。HAはHSAに取り込まれる際のアミノ基/アンモニウムイオンとの水素結合/静電相互作用により、生成する負電荷はアントラセン環への共鳴構造の寄与により安定化するため、10~20nm程度の長波長シフトが期待され、実際UV/Vis測定より、5nm程度ではあるが長波長シフトが観測された。また円二色(CD)スペクトルを用いた検討からも、HAがHASが形成する不斉環境に取り込まれる事が、HAの吸収領域に誘起CD(ICD)ピークが観測された事から明らかとなった。しかし、HAの水溶性が十分でないため、HSAに取り込まれるHAは1当量程度であり、光反応を検討したものの、光二量化反応の進行は、はほとんど観測されなかった。今後光反応に用いる溶媒や、ペー波などの条件検討を行い、実験条件の最適化を行い、テーラーメイドバイオ高分子を不斉反応場とする触媒的生体高分子ナノリアクターの創製を検討していきたい。
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