研究課題
現在、医学や薬学だけでなく化学・農学そして化成品工業など多くの分野で光学活性物質の必要性が高まっており、不斉合成は最も注目されている分野の一つである。我々は、血清アルブミンが、ポルフィリン化合物や芳香族カルボン酸などを特異的に認識し、包接することに着目し、血清アルブミンと結合し、しかも高い光反応性を持つアントラセン-2-カルボン酸(AC)を基質とする不斉光反応を検討している。ウシ血清アルブミンをキラル反応場とする超分子不斉光反応を検討した結果、比較的高い光学収率を達成し、血清アルブミンが有効なキラル反応場として機能することを報告した。ヒト血清アルブミン(HSA)はアミノ酸配列はもちろんのこと、X線構造解析による立体構造が明らかとされており、また様々な基質との結合挙動について多く報告されている。また、血清アルブミンは、その母体由来による大きな違いはないと考えられているため、HSAも不斉反応場として利用できることが予想される。本年度はヒト血清アルブミン(HSA)を不斉反応場とした、2-アントラセンカルボン酸(AC)の光反応を検討した。反応条件の最適化を行うことにより80%以上の光不斉合成としては高い光学収率が得られた。さらに、結合挙動の解析に基づき、AC結合部位近傍のアミノ酸配列を変化させたミュタントを合成し、結合部位近傍の構造をより高い光学収率が得られるよう改変を検討した。HSAとACとの結合モデルの最適化に際してはMacromodelなど計算化学の手法を用い、まず基底状態における2分子のACの結合位置・結合環境を最適化し、その結果に基づきポイントミュテーションの手法を駆使する事により不斉反応場の最適化を検討した。この結果に基づき、HSAの結合部位周辺のアミノ酸配列をポイントミュテーションした3種類のミュタントを協同研究により、合成した。これらの全ての条件を最適化することとにより、これまで光不斉合成では最も高い92%の光学収率が得られた。
すべて 2010 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Photochemical & Photobiological Sciences
巻: 9 ページ: 655-660
Supramolecular Chemistry
巻: 22 ページ: 149-155
Chemical Communications
巻: 46 ページ: 631-633
Tetrahedron
巻: 66 ページ: 344-349
Chem.Lett.
巻: 39 ページ: 112-113
Chemistry-A European Journal
巻: 16 ページ: 7448-7455
Peptide Science
巻: 46 ページ: 343-344
巻: 46 ページ: 321-324
http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/wada/index-j.html