本研究は、より多様な基質への適用性獲得と本方法論の一般化を目指し、ファージディスプレイ法を活用した積極的な生体高分子系超分子不斉光反応系構築について検討した。 生体高分子を活用し、化学反応の精緻な制御を実現した例は、触媒坑体・人工坑体である。遷移状態中間体で免役した坑体を用い、熱的合成反応制御に関する研究は注目され、多くの報告がある。しかし、一般的に熱的合成反応の進行には加熱が必要である。しかし、タンパク質である触媒坑体は高温条件下では変性を受け、本来の機能が低減・消失してしまう。すなわち触媒坑体を活用した熱的合成には本質的に相反する限界を伴い、最適の系とは言い難い。光反応は電子的励起状態を経由するため、基本的に反応温度の制限はなく、触媒坑体の構造が安定に存在する低温における反応が可能であり、長波長側に吸収がある反応基質を用いることにより、触媒坑体に光を吸収させることなく、ホストである触媒坑体に全く影響を与えることなく、反応を進行させることが可能で、理想的な反応系の一つであると考えられる。本年度は、まず、抗原として用いる2-アントラセンカルボン酸(AC)の光二量体の大量取得法の確立を検討した。その後、得られたAC二量体を用い、ACの光二量体を抗原・擬似ハプテンとする超分子不斉光反応に供する人工坑体の取得を、ファージディスプレイ法により検討した。抗原としては、本来キラル化合物であるsyn-HTあるいはanti-HH体を用いる計画であったが、単離精製など問題によりアキラルなanti-HTを用いた。パニングによりanti-HT AC二量体を認識する人工坑体の取得に成功した。さらに興味深いことに同じHTでキラルなsyn-HTを特異的に認識する人工坑体の取得に成功した。これら人工坑体と光反応基質ACとの、基底状態ならびに励起状態における相互作用をUV、円二色性(CD)スペクトルならびに蛍光スペクトル測定装置、さらには蛍光寿命測定などにより詳細に検討した。
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