研究概要 |
平成21年度は、光検出NMR分光装置の開発を主目標として研究を行った。本装置は、大きく分けて、三つの部分から構成される。すなわち、1)レーザー光源、2)静磁場および振動磁場の印加が可能な簿膜試料用の温度可変クライスタット、3)発光測定が可能な分光検出器あるいは、光-磁気ラマン散乱の測定が可能なフォトダイオードである。このうち、1)と3)は市販されているものがあり、既に研究室で所有・管理しているものがある。本研究では、まず、2)の薄膜試料に対してマイクロ波やラジオ波磁場を印加可能かつ、静磁場印加および温度可変な発光測定治具を作製した。この測定治具を用いることにより、ポリ(3-アルキルチオフェン)[P3AT]のスピンコート薄膜(膜厚約100ナノメートル)に対して0-3.7mTの磁場条件下で、発光分光測定することが可能となった。同時に、周波数1-8ギガヘルツ,最大電力27dBmの振動磁場を印加することが可能となった。また、光検出磁気共鳴法に用いるP3AT薄膜デバイス素子と同一の試料を用いた電気伝導特性や誘電特性の時間変動、すなわちノイズ特性の評価も行った。その結果から、P3ATの秩序-無秩序相転移点近傍で、交流インピーダンスが時間的に大きく揺らぎ、その緩和過程は熱活性的であることがわかった。このようなインピーダンスのゆらぎとP3ATの分子運動との直接的な相関は不明であるが、分子の構造ゆらぎと巨視的な物性であるインピーダンスが相関している可能性がある。現時点では、レーザーの出力パワーの時間安定性が不十分であるため、今後、出力安定化を試み、光検出磁気共鳴実験を行っていく予定である。
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