β-FeSi_2は、資源が豊富なFeとSiで構成される半導体であり、禁制帯幅が約0.75eVの間接遷移型半導体であるが、光吸収係数が薄膜太陽電池材料であるCIGS系並みに大きいとの特徴をもつ。これまで、受光素子や発光素子への応用が期待され、盛んに研究が行われてきたが、Si基板上に結晶成長したβ-FeSi_2薄膜を用いた受光素子、および発光素子では、外部量子効率が室温で1%未満に留まっている。一方、β-FeSi_2バルク結晶を用いた受光素子では、外部量子効率が20%に達するなど、薄膜とバルクで大きな差が生じている。我々は、この原因を、β-FeSi_2薄膜中に存在する欠陥と10^<18>cm^<-3>以上の高い正孔密度が原因と考えている。この問題に対し、本年度は、原子状水素援用MBE法により、キャリア密度の低減を試みた。Si(111)基板上に、1800℃でクラッキングした原子状水素を照射しながら、厚さ500nmのβ-FeSi_2膜を高抵抗Si(111)基板上に分子線エピタキシー法によりエピタキシャル成長した。成長時の水素分圧を8×10^<-5>Pa、8×10^<-4>Paと変化したところ、β-FeSi_2膜の伝導型がp型からn型に変化した。また、電子密度は水素分圧が8×10^<-5>Paのとき、7.8×10^<16>cm^<-3>であり、移動度は130cm^2/V・sであった。さらに、水素分圧を8×10^<-4>Paまで増加したところ、電子密度は1.3×10^<16>cm^<-3>まで下がり、移動度は330cm^2/V・sに増加した。β-FeSi_2膜内に水素が残っていることは、SIMS測定により確認した。このように、原子状水素を照射しながらβ-FeSi_2膜を成長することで、キャリア密度を従来よりも3桁近く低減することに成功した。キャリア密度の低減は、少数キャリア拡散長および少数キャリア寿命時間の増加でも確認された。 Al/n-β-FeSi_2膜ショットキー接合を利用して、電子線誘起電流法(EBIC法)を用いて少数キャリア拡散長を評価したところ、原子状水素を用いない場合には16.6μmであり、通常の値8.2μmと比べて長くなった。また、マイクロ波光伝導法により少数キャリア寿命時間を評価したところ、前者は17.4μsであり後者は3.2μsとなり、キャリア密度の低減が確認された。
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