研究概要 |
今年度は本研究課題の最終年度にあたり,今までの研究において得られた結果を総動員して,電極材料として有機半導体と親和性の高いグラフェンを対象として,電極の物理的・化学的制御による有機デバイス特性,特に有機トランジスタ(OFET)特性の向上を目指した. 1.溶液プロセスによるグラフェン電極の作製法の確立 有機物は各種の溶媒に可能であり,薄膜作製に溶液プロセスの適用可能であることが製造コストの低減をもたらすと期待されている.従来の研究では有機半導体薄膜の成長に溶液プロセスを用いることが多かったが,それに加えて電極形成も溶液プロセスで成膜できれば更なる低コスト化が可能となる.グラファイト粉末を酸化剤により酸化した酸化グラフェンは各種溶媒に可溶である.本研究では,あらかじめオゾン処理によって一部を親水化したSiO_2基板上に酸化グラフェン溶液をスピンコートすることによって自動的にパターン形成された酸化グラフェン層を形成し,その後のヒドラジン処理および500℃の焼成により伝導性を回復したグラフェン電極を,真空蒸着プロセスを一切使うことなく形成することに成功した. 2.グラフェン電極によるOFET特性の評価 ペンタセンをトリクロロベンゼンに溶解した溶液を,グラフェン電極をあらかじめ形成したSiO2基板上に滴下し,有機半導体層を形成した.本手法により形成されたペンタセン薄膜では,金電極の場合と異なって薄膜形態において不連続性は観察されず,またラマン分光による配向評価においても電極上とSiO2上で分子配向が同一であることが確認された.一方,トランジスタ特性においても,0.7cm^2V^<-1>s^<-1>程度の電荷移動度が観測され,さらに閾値電圧が-1~-4Vと極めて小さいことが明らかとなった.電極材料と用いたグラフェンが金などと異なり有機物との親和性が高いことがこれらの特性向上に寄与したと考えられる.
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