本研究の目的は、固体表面の原子構造制御と化学状態制御に基づき、タンパク質分子の選択的吸着、すなわちタンパク質分子の選別機能を有する固体表面を創製することである。タンパク質分子の構造的特徴を識別する表面を用い、新原理に基づくタンパク質検出チップを開発する。また、固体表面へのタンパク質分子の吸着機構に新しいモデルを提出し、バイオデバイスで大きな問題となっている非特異吸着抑制の基本原理を提示する。 以上の目的に沿って、ドメイン構造を有するサファイア表面におけるタンパク質選択吸着の機構解明を行った。実験では、電荷状態の異なるタンパク質を用意し、溶液のpHを変化させて吸着と脱離を観察した。その結果、選択性を生じる第一の原因は電荷による相互作用であることを明らかにした。しかし一方、脱離に関してはpH変化だけでは説明できないことも明らかとなった。すなわち、吸着はタンパク質分子のアプローチの過程であるので静電相互作用が主として関わるが、吸着した後の脱離は、疎水性相互作用なども関わり、この効果はタンパク質の種類に依存するため、単純な電荷効果では説明できないことが明らかとなった。また、これらの吸着現象の基礎となるサファイア基板上のドメインの性質を走査プローブ顕微鏡を用いて液中で評価する手法を開拓し、液中での表面化学状態を極めて選択性良く観察できることを明らかにした。サファイアからさらに一歩進めて完全な一次元物質であるグラフェンをサファイア基板に貼り合わせ、グラフェンのタンパク質吸着がグラフェン界面によって制御可能なことを示した。
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