基板表面上に吸着した機能性分子のトンネル電子励起による発光現象を明らかにするため、前年度までは微弱光を効率良く測定できるシステムに改良してきた。その結果として、テスト試料であるGaAs(110)表面を用いた場合に、高効率で検出できるようになった。そこで、最終年度である23年度は、基板上に吸着した燐光分子(イリジウム錯体やアルミニウム錯体)を用いて、トンネル電子励起による発光特性を調べた。発光を検出することができ、注入電子のエネルギーに相当するバイアス電圧の発光強度依存性などを明らかにすることができた。しかしながら、発光強度は予想外に弱く、発光強度の空間変化や分光測定までには至っていない。発光メカニズムの詳細を調べるためには、今後、更なる改良が必要になる。一方、基板上に吸着した分子の電子状態の空間変化を走査型トンネル分光法でマッピングする技術を確立させ、吸着状態での分子のHOMOやLUMOなどの分子軌道を可視化することが可能になった。これは、特定の分子軌道への電子注入(またはホール注入)が可能であることを意味する。今後、発光検出と組み合わせることで、分子の電界発光の詳細が明らかになると期待できる。 23年度は多くの実験を行うことに時間を割き、論文発表が不十分であったが、多くの実験結果を得ることが出来たので、順次論文としてまとめる予定である。
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