研究概要 |
光学的誘電率を推定するために我々が考案した光電子分光を利用する解析手法を用いて,従来MOSFETのゲート酸化膜構造に用いられてきた1.2nm-SiO_2/Si(100)試料と,表面界面物理の研究対象となってきた理想的な1.1nm-SiO_2/Si(111)試料の極薄膜SiO_2の光学的誘電率を推定した.まずSPring-8放射光を用いた光電子分光実験によりSi1sおよびSi2pの光電子スペグトルを高分解能で測定した.そして,基板Siに対する薄膜SiO_2のスペクトルピークのケミカルシフト(△E1s,△E2p)を高精度に算出して,相対的ケミカルシフト(△E1s-△E2p)を決定した.決定した相対的ケミカルシフトの値から,研究代表者がすでに明らかにしている(△E1s-△E2p)と(ε-1)/(ε+2)との直線関係(K.Hirose et al. Appl.Phys.Lett.89 (2006) 154103)を用いて,光学的誘電率を推定した.その結果,SiO_2の光学的誘電率はSi(100)基板上で2.41, Si(111)基板上で2.50とわずかに異なることが明らかとなった.一方,SiO_2構造のクラスタモデルを構築して,研究代表者が開発した第一原理計算を用いた手法で光学的誘電率の計算(K.Hirose et al. Appl.Phys.Lett.93 (2008)193503)を用い,光学的誘電率のSi-O結合長依存性,Si-O-Si結合角依存性を明らかにした.その結果,光電子分光で明らかにされた事実は,Si(111)基板上に形成した極薄膜SiO_2の方がSi(100)基板上に形成した極薄膜SiO_2よりSi-O結合長が長いことを示唆していることが分かった.本結果は,立体型MOSFETの開発において,異なるSi面方位上に形成されたSiO_2薄膜の物性の違いがデバイス特性に影響を与える可能性を考慮しなければならないことを意味しており,貴重な知見である.
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