研究概要 |
これまでに我々が考案した光電子分光を利用する解析手法を用いて,Si基板上に形成した熱酸化膜SiO_2の光学的誘電率は,Si(100)基板上とSi(110)基板上でほぼ一致するが,これらの値と比べてSi(111)基板上では明らかに大きいことが分かったので,これを検証するために追試実験と理論的考察を行った. ドライ熱酸化で,1.2nm-SiO_2/Si(100)試料,1.0nm-SiO_2/Si(110),1.0nm-SiO_2/Si(111)試料を準備した.続いてこれらの試料をSPring-8放射光施設に持って行き,光電子分光実験によりSi1sおよびSi2pの光電子スペクトルと,Si KLLのオージェスペクトルを高分解能で測定した.基板Siに対する薄膜SiO_2のスペクトルピークのケミカルシフト(ΔE1s,ΔE2p)を高精度に算出して,相対的ケミカルシフト(ΔE1s-ΔE2p)を決定した.決定した相対的ケミカルシフトの値から,研究代表者がすでに明らかにしている(ΔE1s-ΔE2p)と(ε-1)/(ε+2)との直線関係を用いて,光学的誘電率を推定した.一方,基板Siに対する薄膜SiO_2のオージェパラメータ=[Si 1sの束縛エネルギー]+[Si KLLの運動エネルギー]を高精度に算出した.決定したSi基板とSi酸化膜のオージェパラメータの値は光学的誘電率の大小を表すことを研究代表者等はこれまでに明らかにしている.その知見をもとにすると,SiO_2薄膜の光学的誘電率はSi(100)基板上やSi(110)基板上と比べて,Si(111)基板上で大きいことが確かめられた. Si(111)基板上で光学的誘電率が大きくなる原因を第一原理分子軌道計算を用いて考察した.その結果,SiO_2/Si(111)界面近傍では,他の界面近傍と比べてSi-O結合距離がおよそ0.8%程度長くなっているためであることが示唆された.
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