本研究では、ランダムネットワーク構造を用いた全く新しいタイプの光制御素子の開発をめざし、次の3つの研究を行うことを目的としている。i)ランダムネットワーク構造による3次元フォトニックバンドギャップ(3D-PBG)形成機構を理論的に解明し、3D-PBGを有する新たなランダムネットワーク構造を系統的に探索する。ii)マイクロ波帯で構造を試作して電磁波透過実験を行い、3D-PBG形成の実験的検証、電磁波閉じ込めの実証、その閉じ込め強さ等の基本性能の評価を行う。iii)光波帯での作製法を検討し、試作する。 ii)については22年度までにほぼ終了しており今年度はi)とiii)の研究を進めた。i)についてはFDTD計算により、電子論における強束縛近似モデルと同様なモデルで3D-PBG形成機構が説明できることを明らかにした。iii)については当初予定していたD-MEC社の光造形システム(ACCULAS)を用いた試料作製は造形後の洗い出しがうまくいかず、満足のいく試料は作製できていない。そのかわりにドイツのNanoscribe社の光造形装置による試料作製を進めた。この装置は、すでに光波帯(λ~3μm)サイズのフォトニック結晶の作製に利用され、多くの先駆的成果を出している。Nanoscribe社では依頼造形を受けており、本年度はまず我々のランダムネットワーク構造と局所構造が同様なフォトニック結晶の構造作製を依頼し、作製に成功した。ランダムネットワーク構造に関してはすでに構造データを先方に送り、作製を試みてもらっている。これ以外に本年度は、我々のランダムネットワーク構造に欠陥を導入して作製した光共振器が通常のフォトニック結晶の光共振器と同程度の光閉じ込め性能、光閉じ込め体積をもつかどうかをFDTD法により検討した。光閉じ込め性能の指標であるQ値と閉じ込め体積の指標であるモード体積を計算し、比較することで、我々のランダムネットワーク構造の光共振器が通常のフォトニック結晶の光共振器と同程度の性能をもつことを明らかにした。
|