昨年度構築した、転写制御因子との結合によるDNA立体構造のダイナミクス変化をリアルタイムで計測するシステムを用いて、タンパク質との結合による転写機構の観察を試みた。具体的には、二つの金属ナノ粒子対(ダイマー)がナノスケールまで近接した系では、粒子間距離が短くなるにつれて、局在プラズモン共鳴波長が長波長側にシフトすることを利用して、特定の塩基配列を有するDNAに特異的にタンパク分子が結合することでDNAが屈曲する構造変化を、DNA両端に結合した金ナノダイマーのプラズモン共鳴波長シフトとして計測することで、観察した。有限差分時間領域(FDTD)法により、金ナノ粒子の直径およびDNAの塩基数(DNA長)の最適化を行い、直径50nmの金ナノ粒子および50塩基のDNA(17nm)によって構成される金ナノダイマーを用いることで、プラズモン共鳴波長シフトを最も大きくできることを見いだした。この解析結果を用いて、転写因子タンパク分子(SOX2)が特異的に結合する塩基配列(DC5)を含む50塩基のDNAの両端に金ナノ粒子(50nm)を結合した金ナノダイマーを作製した。暗視野照明による顕微観察の結果、金ナノダイマーのプラズモン共鳴波長は586.9±5.7nmであった。次に、転写因子タンパク分子(SOX2)と金ナノダイマーのDNAを特異的に結合させると、プラズモン共鳴波長は607.3±5.7nmにシフトした。さらに、SOX2と協調的に結合する転写因子(PAX6)を加えると、プラズモン共鳴波長は615.2±8.5nmにシフトした。金ナノダイマーのDNA塩基数を変えてプラズモン共鳴波長を測定することで作成した検量線から、それぞれの粒子間距離は平均で、6.6nm(SOX2)および5.3nm(SOX2+PAX6)と見積もられ、平均屈曲角度はそれぞれ64.6°(SOX2)、68-7°(SOX2+PAX6)に相当する。SOX2の結合による屈曲角は電気泳動法により得られた数値(66°)に対し標準偏差内にあることを確認するとともに、SOX2とPAX6との結合による屈折角の測定に初めて成功した。また、単一生体分子を高感度に測定可能とする大面積SERS基板の開発も行った。
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