本研究の目的は、自然界の生物、特にモルフォ蝶のもつ巧妙なナノ構造をベースにした、新規な発色体の開発である。その最大の特徴は、色素不要(省材料かつ環境対応型)である点と、高反射率ながら広視野角という一見矛盾する物理特性を有する点、かつその広角において単色かつ色不変な点にある。この特異な光学特性を再現する材料自体は、申請者はすでにプロトタイプ作製と量産化技術の開発に成功しており、さまざまな分野で広範な応用が期待できることがわかってきた。しかし、実用へは数多くの未踏のステップを要する。今年度の焦点は、「ナノ構造の乱雑さの光学的役割」の解明である。本発色体の特異な物性の鍵は「乱雑さ」にあるとされるが、従来の解析的シミュレーション(多層膜計算+回折)では非解析的な構造の光学評価が不可能であった。そこで、新たな算法(解析解でなく数値解によるFDTD解析)を導入し、「乱雑さの役割」を検討した。まず従来の解析計算と新たなFDTD計算との整合性を精査し、両者の慎重な比較により構造パラメータを最適化した。次に種類の異なる各種の乱雑さについてパラメータを変え、その影響を調べた。その結果、発色基板を水平とした場合の上下方向と左右方向の乱雑さ、また単位構造1つ1つの幅と間隔、等における乱雑さが「光学特性に与える影響」はそれぞれ異なっており、また光源の考察も本質的であることが判明した。構造と光学特性との相関が乱雑さを含めて定量的に把握できるようになった点は今後の設計にとって非常に大きい。基本的・原理的な特性が把握できたので、次年度以降は、作製基板が含む実際の乱雑さの計算を進める。同時に予測と構造(作製)と測定の関係付けを図りつつ、基板を設計・作製する。様々なモルフォ基板の作製および乱雑さに関する評価は招待3件(国際会議)を含む複数の発表として結実した。
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