研究概要 |
研究計画初年度となる2009年度は,強相関電子系の示す交差効果に対する理論的研究のための手法開発に軸足を置き様々な成果を挙げてきた. 遷移金属酸化物に代表される,いわゆるモット絶縁体の多くは,強い電子相関を反映して磁気秩序を安定な状態として示す.この周辺に現れる,いわゆる異常金属相の電子状態は,秩序した磁気モーメントと協力あるいは競合しながら築き上げられる.これを記述する有効模型を,量子力学に従う電子のハイゼンベルク方程式と磁気モーメントが構成する古典場の従う方程式(Landau-Lifschitz-Gilbert方程式)を連立する形に導き,その時間発展を取り扱うことの出来る数値的手法を確立した.得られた数値計算の結果を元に,強相関電子系における磁気的なエネルギー緩和と外場応答を掌る,動的な電子スピンと磁気モーメントの緩和過程を明らかにした. また,大規模行列の数値的対角化の手法を発展させることにより,様々な遷移金属酸化物の電子状態と外場応答に関する研究を行った.これにより得られた知見は以下のとおりである: ・ニッケル不純物を含む銅酸化物での,正孔キャリアー局在化の条件 ・銅酸化物の結晶構造とクーパー対の不安定性 ・鉄を含む酸化物の電子状態と結晶構造の関係 強い電子相関は,熱起電力の磁場応答にも異常を導く.我々は,動的平均場理論を用いて強い電子相関を含む系の熱起電力の温度依存性および磁場依存性を調べた.そして,コバルト酸化物に見られる熱起電力の巨大な磁場応答を議論した.
|