研究概要 |
研究計画次年度となる2010年度は,初年度に培った理論的手法に基づき,遷移金属酸化物に代表される強相関電子系の外場応答を調べるとともに,更なる手法開発を進めた. 時間反転の破れた系の典型として,磁石がある.磁性体の磁気モーメントは古典的な運動方程式に従う側面を持つ.磁気モーメントの起源は,電子スピンと電子間相互作用にあり,古典的自由度として振舞う磁気モーメントと電子は互いに影響を及ぼしあう.この電子-スピン結合系の,電場,磁場,熱,光などの外場に対する応答を調べるため,本計画では,量子-古典ハイブリッド系の実時間ダイナミクスのシミュレーションを行ってきた.この動的な電子スピンと磁気モーメントの緩和過程の中に,興味深い電子励起を発見した.すなわち,光励起した電子系が,その不安定状態の緩和を加速するように,さらなる電子-正孔対を多重生成させる緩和過程である.これは,光による電気エネルギー生成の新機構の可能性を持つものである. 磁性体のような時間反転を破る秩序状態にある電子系と,質の違う秩序状態,すなわち超伝導状態にある電子状態の接合系がもたらす新しい外場応答の理論的研究も進めた.磁性体に磁気モーメントは,振動磁場により共鳴を起こすが,このダイナミクスは,磁性体により分かたれ隣接する超伝導状態の結合とこれに付随する電気伝導に影響を与える.研究代表者と分担者は,この理論を発展させ,磁性体の空間構造による外場応答の制御の着想に至った. ほか,初年度の研究を発展させ,梯子格子・強相関電子系,ニッケルを含む銅酸化物,銅酸化物高温超電導体,コバルト酸化物の電子状態,そしてその熱電応答の研究を行った.特に,銅酸化物において,酸素ドープがもたらす磁気的相互作用,そして超伝導の起源を与える電子対の結合に与える影響を明らかにした.
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