研究課題/領域番号 |
21360045
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
室田 一雄 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (50134466)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 数理工学 / 最適化 / 凸関数 / アルゴリズム |
研究概要 |
本研究は,工学や社会科学の諸分野における最適化の理論と応用を「離散凸パラダイム」によって統合することを目的とする.「離散凸パラダイム」の横糸は構造定理やアルゴリズムなどを代表とする数理であり,縦糸は諸応用分野における具体的な問題であり,その結び目の役割を果たすのがソフトウェアである. 目的の実現のため,(a)数理の深化,(b)応用の開拓,(c)ソフトウェアの整備,の3つの側面に応じて研究を推進し,研究成果を発表した.本年度の具体的な成果は以下の通りである. ・行列束に関連して現れる離散凸性に関して,ルジャンドル共役性を指摘し,行列束への構造的アプローチにおける共役性の意義について論じた. ・デルタマトロイドが線形デルタマトロイドの射影で表される場合に対して,その多項式可解性を議論し,先行研究で考えられていた多様な制約付きマッチング問題を包含する,多項式計算可能な問題クラスを導出した. ・離散最適化における基本的なアルゴリズム(ダイクストラ法など)を離散凸解析の立場から見直して整理し,著書の形にまとめた. ・M凹関数であることが知られていたマトロイドの階数関数の重み和がM凹関数であるための必要条件について検討した. ・未解決であった重み付きtriangle-free 2マッチング問題と,ジャンプシステム上のM凸関数との関係を明らかにした. ・M凸関数のバリエーションを用いることで,今まで二部グラフに限定されていたマッチングモデルの拡張を,一般の有向グラフへと拡張する研究をすすめた. ・多重クラス待ち行列に関連して現れる特殊な劣モジュラ関数の最小化問題に対し,計算幾何学的な高速アルゴリズムを設計した. ・前年度に引き続き,シフトスケジューリングなどの離散凸関数の応用に関する各種デモンストレーション,ソフトウェアを整備して,WEB上に公開するとともに,論文にまとめ,発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,工学や社会科学の諸分野における最適化の理論と応用を「離散凸パラダイム」によって統合することを試みている. 離散凸解析の理論と応用を, (1)連続・離散軸, (2)凸・非凸軸, (3)分野横断軸,の3つの観点から整理することによって,個々の数理的技法や応用諸問題の相互関係を明確にし,(a)数理の深化,(b)応用の開拓,(c)ソフトウェアの整備の3つの面で新たな展開を図ってきた.具体的には,以下のテーマについて研究を推進し,研究成果を発表し,いずれもおおむね順調に研究が進展している. まず,「数理の深化」においては,多項式行列のもつ離散凸性に着目して,数値情報と構造情報の定量的関係性を明らかにすること,および最短路問題や多品種流問題と離散凸関数最小化の関係を明確にすることが課題とされていたが,いずれについてもある程度の成果を得ることができ,一部については学会や論文誌で発表された. 次に,「応用の開拓」については,ゲーム理論における効用関数の最大化問題におけるM凸関数の意義を明確にすること,オペレーションズ・リサーチ(とくにスケジューリング問題)への離散凸解析の応用を研究する計画であったが,当初予定していた研究の進展が得られた. 最後に,「ソフトウェアの整備」については,前年度までに引き続き,離散凸関数の応用に関するデモンストレーションを整備して,WEB上に公開することを実現した.WEB公開,ソフトウェア開発について論文にまとめ,発表した. 以上より,現在までの達成度はほぼ予定通りであり,研究計画は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続いて,3つの側面に応じて,様々なテーマについて研究を推進し,研究成果を発表する.とくに,予定通りに研究が進んでいない部分については,重点をおいて研究を進める予定である.より具体的には以下の計画で研究を進める. まず,「(a) 数理の深化」であるが,行列束より一般的な多項式行列のもつ離散凸性に着目して,数値情報と構造情報の定量的関係性をより詳細に明らかにしていく.次に,「(b)応用の開拓」においては,引き続き,ゲーム理論における効用関数の最大化問題におけるM凸関数の意義の解明,付加情報の多いスケジューリング問題への離散凸解析の応用展開を試みる.最後に,「(c) ソフトウェアの整備」においては,前年度に引き続いて,離散凸関数の応用に関する様々なソフトウェアとデモンストレーションを整備して,WEB上に公開する. この研究の遂行のために,以下の連携研究者からの協力を仰ぐ予定である.まず,田村明久氏(慶應義塾大学・理工学部)には社会工学における離散凸性の研究をお願いする.岩田覚氏(東京大学・情報理工学系研究科)には,離散凸解析のアルゴリズムの設計におい て協力を仰ぐ.塩浦昭義氏(東北大学・情報科学研究科)には,連続変数の離散凸理論の研究を行っていただく.森口聡子氏(首都大学東京・社会科学研究科)にはアルゴリズムの実現と応用の開拓において協力して貰う.垣村尚徳氏(東京大学・教養学部附属教養教育高度化機構)にはソフトウェア整備の支援をお願いする.小林佑輔氏(東京大学・情報理工学系研究科)には,制約つき最適化の手法の検討をしてもらう.最後に,土村展之氏(関西学院大学・理工学部)には,アルゴリズムの開発とソフトウェアの実現において協力をお願いする.
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