平成21年度はシャープなエッジ部など、曲率の大きな形状を持つ加工形状にも対応できるように逆方向シミュレーションの改良を行った。具体的には、従来の逆方向シミュレーションでは、放電1回当たりの除去体積を工具電極と工作物とで逆にしていたが、除去体積を逆にするのではなく、除去長さが逆になるように、曲率の値を使用して補正を行った。この操作が理論的に正しいことが示されたので、平成22年度は、形状モデリングに使用しているボクセルの大きさがシミュレーション精度に及ぼす影響を調べ、計算時間が過度に長くならないように最適なボクセルの大きさを定めた。さらに、改良した逆方向シミュレーションで得られた形状を持つ工具電極を用いて実際に加工を行った。その際、シミュレーションに必要なデータベースを、シミュレーションと同じ加工条件を用いて実験から求め、そのデータベースを用いて運方向シミュレーションを行った。その結果、従来のギャップ長をオフセットしただけの工具電極を用いた加工よりも加工精度が向上することを実証した。しかし、シャープなエッジ部で工具電極が異常消耗することが原因で、十分な加工精度が得られなかった。そこで、エッジ部に特に消耗しにくい材質の箔を用いることにより、異常消耗を防ぎ、加工精度を向上する試みを行った。その一例として、工具電極に比較的に消耗の大きな黄銅を用いた実験において、エッジ部にだけ銅箔を挟み込んだ工具電極を作成して加工を行ったところ、黄銅単体の場合に比べてコーナ部の加工精度を向上させることができた。
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