研究概要 |
昨年度使用した含有アミノ基高分子に加え,含水酸基高分子を評価解析に使用した.摩擦測定には,速度範囲が5桁に及ぶ速度変化が可能な摩擦試験機を用いた.配向性の良い分子膜を形成する長鎖脂肪酸添加油では速度減少に伴い摩擦が徐々に減少し,更に極低速では摩擦係数の上昇を示したが,高分子添加剤では全て摩擦低減作用は発現されたが,速度減少につれ摩擦係数は徐々に増加を示した.しかし,高分子化合物内の官能基の濃度が高い高分子物質ほど摩擦低減能が高いことが確認され,表面への吸着性の高さ,あるいは脱離のしにくさによる摩擦低減作用の発現メカニズムに沿った結果が確認された.表面に吸着した高分子化合物の脱離の程度を,同じ官能基を有する低分子化合物と比較検討するため,低速において昇温試験を行い摩擦低減作用が失われる転移温度を求めその性能比較を行った.その結果,常温近傍では摩擦係数の値は配向した分子膜を形成する長鎖短分子化合物の方が低摩擦を示したが,転移温度は高分子化合物の方が高い値を示しその性能および作用機構が確認できた. 次ぎに,基油の極性を変える意味で無極性のPAOに加えて僅かに極性の高いアルキルナフタレンを用いた.極性溶媒中では高分子鎖は広がり極性基が糸毬状高分子鎖の外側に向かうようになり,固体表面上への吸着能がより高くなり高性能を示すことが期待された.昇温試験による転移温度測定および添加油の粘度測定,更には誘電率と誘電緩和測定結果から,高極性基油中で高分子鎖が広がる傾向が確かめられそれが性能向上につながっていることが確かめられた.原子間力顕微鏡を用いた表面上の有機分子膜の解析はその測定の繊細さから信頼性の高いデータを得るに至っていないが,単に形状像や摩擦像のみならず粘弾性測定を行うことで有用な知見が得られる糸口を掴んだ,DLCなど鋼以外の表面における性能把握は引き続き検討中である.
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