研究概要 |
希土類元素の地殻存在量はSn,Pbなどより高く,また可能採掘年数は1200年と想定されている、さらに,希土類金属の酸化物の硬度はきわめて高く,摩耗や腐食などに耐性を有する保護膜としての応用が期待される.本研究では,現存の技術の中で最も強力な酸化種である原子状酸素と希土類金属のアークプラズマとを基板に複合照射する独創的な手法を開発することにより,機械的特性に優れた希土類酸化物薄膜の創製を試みた.希土類金属として,La,Ce,Pr,NdおよびYを用いて,それぞれの酸化物膜La_2O_3,CeO_2,Pr_2O_3,Nd_2O_3,Y_2O_3を作製し,X線光電子分光によって組成分析を行った.その結果,70~90nmの膜全体にわたり,完全なストイキオメトリを有する酸化物膜になっていることが明らかとなった.また,基板として用いたSi(001)の原子的平滑性を損なうことなくRa=0.3nm以下の酸化物薄膜を作製することができた.さらに特徴的なことは,すべての酸化物薄膜が酸化発色を呈したことで,赤から青にわたって鮮やかな色彩を有した.また,基板温度300℃で作製したCeO_2のナノインデンテーション硬度は基板のSi(001)に匹敵するほど高く,一方La_2O_3は比較的軟質であることが明らかになった.走査電子顕微鏡内に組み込んだ往復摺動型トライボメータによって,酸化物薄膜の摩擦特性と耐摩耗性を評価した結果,La_2O_3とPr_2O_3の摩擦係数が0.15~0.2と低く,CeO_2とNd_2O_3とが耐摩耗性を有するなど多彩な特性が明らかとなった,次年度においてさらなるトライボロジー特性の解明を行うことによって,希土類酸化物膜の応用と,我国における希土類産業の振興に貢献することができるとの確信を得た.
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