本研究の目的は、不凍化蛋白質の凝集を制御することにより、ある特定の時間に、ある特定の領域の氷結晶成長を抑制する方法を確立することである。さらに、その方法に基づき、食品製造・保存や医療における、安全かつ省エネルギーの氷成長制御技術の開発指針を提示することも目的としている。初年度は、以下のような結果を得た。 1.蛋白質濃度の情報は、蛋白質に付加した生物用量子ドットの発光強度を測定することにより、推定する予定であったが、現時点では、生物用量子ドットは蛋白質よりも大きく、蛋白質の拡散への影響が無視できないと思われた。そこで、より小さな蛍光分子を選定し、これを付加する準備を行った。 2.イオン濃度を変えるために、多孔質膜からのしみだしを予定したが、現在の極めて薄い空間にちょうど収まる膜の作成が困難であることが判明し、当面、予め濃度を変えて測定を行うこととし、より厚い空間の実験を検討した。 3.ナトリウムイオン、塩化物イオン、不凍化蛋白質、氷結晶を含む水に関する分子動力学シミュレーションを行い、イオンの存在により、水分子および氷に近いタンパク質分子の運動が抑えられることを、明らかにした。これに関連して、成果の発表を行った。 4. 現有の近赤外スペクトル分光器、および借用した近赤外カメラを用いて、非接触で温度を測定する方法を確立し、誤差評価を行った。これに関連して、学術誌に論文を掲載した。そののち、氷表面近傍の温度の測定を行い、熱電対の測定結果と比較して、誤差範囲で一致することを確認した。次年度に行う予定の、近赤外カメラによる測定の有効性を明らかにした。
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