生体熱工学の医療応用(温熱療法、熱凝固療法、凍結手術、凍結形成術、凍結保存、乾燥保存)では、細胞や組織は、ストレス(高温、低温、凍結、化学物質、乾燥など)により損傷を受け死滅する。本研究課題では、各種ストレスによる細胞損傷・死滅の数学モデルの構築を目指す体系的研究の一環として、温熱ストレス(約42~45℃)と高温ストレス(45℃以上)を取り上げ、損傷・死滅様式の特性の実験的解明とその現象論的な数学的モデル化を行う。 本年度は、研究代表者が高張電解質水溶液ストレスによる細胞損傷に対して提案・構築してきた反応速度論的定式化による数学モデルをベースに、死滅様式を考慮した細胞の損傷・死滅特性を記述できる数学的モデル化を行った。 1. 一定温度(定常温度ストレス)に曝された細胞の損傷・死滅に対して、生存率の実験結果(引用データ)の現象論的検討に基づいて、反応速度論的定式化によるモデル化(4つのモデル)、および、モデル定数である細胞損傷・死滅の速度定数の決定を行うと共に、その温度依存性を求め、モデルの特性を解明した。 2. 温度ストレスの利用の立場から、1.の結果を非定常温度変化(非定常温度ストレス)に対して、適用・展開し、細胞の損傷・死滅特性を解明した。 3. 生体組織を外表面から非定常熱伝導により加熱した場合、2.の数学モデルを用い、組織内の非定常温度分布に起因する非定常温度ストレスによる組織細胞の損傷・死滅の時間進行を予測し、その特性を解明した。 4. ストレスによる2つの異なる死滅モード(ネクローシスとアポトーシス)が共存する、比較的温度が低い温熱ストレスの場合の細胞の損傷・死滅に関して、反応速度論的定式化に基づいた数学モデルの提案を行い、その解析解を求めた。さらに、各状態の細胞数分率の時間依存性や損傷・死滅の速度定数依存性などのモデル特性を解明した。
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