不凍タンパク質(AFP)や不凍合成高分子(AFSP)は、平衡融解点以下で氷の結晶成長を完全に止めたり、また氷の再結晶を抑制したり核生成を抑制するなど、氷に対して特殊な効果を持つことで知られており、熱工学、食品工学、低温生物工学など多くの分野での応用が期待されているが、それらの効果の統一的な理解は進んでいない。本研究課題は、AF(S)Pの凍結抑制メカニズムの解明を目的としている。 当該年度は、まずはAF(S)P水溶液中で氷結晶の平衡融解点と実際の融解点との差(融解時の熱ヒステリシス:MTH)を測定する手法として、負結晶中にAF(S)P水溶液を注入して温度制御し、負結晶の成長・融解を観察する手法を開発した。MTHをこれまでに定量的に測定した例はなく、次年度以降はこの手法を用いて負結晶のMTH測定を試みる予定である。 また、AF(S)Pが氷の均質核生成に及ぼす影響を、W/Oエマルションと顕微鏡観察を利用した核生成温度の測定によって調べ、AFPの一種であるAFP IIIの添加が氷の均質核生成温度に影響しないことを確認した。それと同時に古典的核生成理論に基づいた氷の核生成頻度の解析を行い、AFP IIIが核生成頻度に影響しないことも確認された。これらの結果は、AFPの核生成抑制効果が、氷のエンブリオや水分子クラスターに対する直接的な作用によるものではなく、不均質核生成を引き起こす要因となる氷核物質に対する作用によるものであることを示唆している。 さらに、氷スラリーを使った冷熱の蓄熱・輸送にAF(S)Pを適用する技術について検討し、AF(S)Pの氷の不均質核生成抑制効果を活用し、過冷却水用熱交換器の凍結閉塞防止技術に応用できる可能性を実験的に示した。
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