研究概要 |
強連成場の解析には,有限要素法などを援用して強制応答解を得る手法がある.しかしながら,連成問題の本質を理解してプログラミングされた数値解析法が仮にあったとしても,そこで得た解はそれでも単なる数値データの集合に過ぎず,対象としている構造システムの背後に潜在する本質的な特性を理解するのは困難であり,条件が変わればその都度,最初から再解析する必要が生ずる.音響・構造連成場における静粛性を追求する上で固有ペアは必須である.固有ペアをベースにグリーン関数が定義できれば,音場の支配因子である音圧と粒子速度が一意に記述できる.すると最適システムを構築する際に系統だったアプローチが可能となり,評価指標として音響ポテンシャルエネルギや構造運動エネルギなどを用いる場合,その記述は固有ペアを基調として展開することができる.そして何よりも重要な点は,系統だった設計を行う基盤を確立することにより,理論的に到達できる静粛化限界を知ることができることである.平成23年度は,長年未解明とされていた一面弾性・五面剛壁で構成される直方体キャビティを対象に,固有ペアを導出するための基本的考え方を記したのち,連成固有関数をクラスタ関数の和として記述することにより空間整合条件の成立が可能となることを明らかにした.また,陽な形で得た固有ペアの有意性を立証するために,固有関数直交条件を導入し,連成系における固有ペアを基調として音圧および音響ポテンシャルエネルギを展開定理で記述した.さらに,数値解析の立場から音響・構造連成現象を明らかにし,連成効果によって生ずる固有ペアには,通常の定在波型モードに加えて,エバネセントモードが発現することを示した.次に,両面弾性直方体キャビティの場合にまで理論を拡張し,固有値問題を数値的に解く段階までは至らなかったものの,実験により固有関数の基本的特性を把握した.
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