研究概要 |
近年,交通事故やスポーツ事故時の頭部外傷を原因とする高次脳機能障害が大きな社会問題となっている.外傷性脳損傷の一つであるびまん性軸索損傷(DAI)の生成機序を外部衝撃と神経損傷の関係から解明するため,外部衝撃による脳内応力分布を有限要素解析より計算し,ひずみによる神経損傷を耐性実験より観察した,具体的には,(1)DAIの力学的発症条件を特定するため,頭部有限要素モデルに後頭部および頚部に打撃を与え,頭部重心に発生する平均加速度およびその持続時間と頭蓋内のミーゼス応力の関係を調べた.打撃の入力には打撃物の重さ(1kg~500kg)と速度(1m/s~20m/s)の組合せたものを用い,計42例の解析を行った.その結果,DAIを引き起こすとされるミーゼス応力が得られたのは14例となり,その力学的発症条件は頭部重心に発生した加速度の持続時間が2~6msで加速度が700G以上もしくは加速度持続時間が7ms以上で加速度が100G以上であった.(2)ひずみ負荷装置を用いて培養神経細胞に10%および20%のひずみを与え,それぞれの実験条件に対して実験前,実験5分後,1,3,24,48時間後に位相差顕微鏡を用いて形態観察を行い,神経突起の長さと神経損傷の指標である神経突起に生じる瘤の数を計測した.その結果,神経突起の長さに関しては,Controlに比しひずみ負荷1時間後までは有意に減少し,ひずみ負荷3時間以降は増加傾向にあった.一方,瘤の数に関しては,Controlに比しひずみ負荷1時間後までは有意に増加し,ひずみ負荷3時間以降は減少傾向にあった.また10%のひずみ負荷に比し,20%のひずみ負荷の方が有意に瘤の数が増加した.以上の結果を踏まえ,平成23年度はより詳細な耐性実験から損傷閾値を決定し,有限要素解析から計算された応力-ひずみ分布上に神経損傷部位と程度をマッピングしていく
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