研究概要 |
本研究の目的は、脳活動、筋電位、指先力および指姿勢の同時計測結果を基にこれまでに開発した擬似三角行列構造に近似した筋腱駆動系モデルに対する運動制御系を組み、その計算機シミュレーション結果と実際の運動計測結果とを比較検討して、脳による指の運動制御戦略における外在筋(腕にある筋)、内在筋(手の中に内在する筋)、および腱の分岐機構の役割を調べることにある。被験者数は10人とした。被験者の示指の指先に対して、インピーダンス制御された指ロボットが目標指先力を加え、被験者は、その目標力に釣り合うように随意運動を行った。その運動中にNIRS(近赤外分光法:光トポグラフィ)によって脳活動を、表面筋電位計測によって筋活動を、6軸力覚センサによって指先力を、そして高精度3次元運動計測システムによって、指姿勢の同時計測を行った。計測は、指のリンク機構にとって力の可操作性が高い(すなわち、微小な指先力の調整に適している)屈曲姿勢と力の可操作性が低い(すなわち、微小な指先力の調整に適していない)伸展姿勢の2つの姿勢において行われた。その結果、示指の微小指先力制御において,最も有効な腱であった骨間筋を使用した被験者では,指先力の可操作性が低い姿勢では,指先力を一定値に制御することが困難であり,制御器である大脳主運動野が活発に活動することが示唆された.結論として、指先力の微小な操作において、指のリンク機構のもつ操作性は指の姿勢によって異なるが、指先力を制御している脳の活動は、その操作性の変化に対応するように調整されていることがわかった。これまで、運動学習の神経機構に関する研究では、脳機能の計測・解析が中心であったが、本研究の成果は、制御対象である運動器の力学的特性が運動学習の神経機構に大きく影響している可能性を示すもので、運動神経生理学の分野に新しい知見を与えるものと期待できる。
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