研究概要 |
不純物ドープダイヤモンドは広いバンドギャップ・高いキャリア移動度など半導体として優れた物理特性から、理想的な半導体材料とされている。本研究開発では,バンドギャップや移動度などの物理特性がダイヤモンドに近いダイヤモンドライクカーボン(DLC)をベースとした不純物半導体成膜技術の構築を目的としている。さらに、高周波デバイス,パワーデバイスに不可欠なダイヤモンドライクカーボン半導体の素子化プロセス技術を確立し、高周波特性・パワー特性においてSiCやGaAsを上回る高周波・高出力ダイヤモンドライクカーボンFETの実現を目指すものである。 平成22年度には、ホウ素ドープによるp型DLC半導体の実現において、Arガスを添加することにより、1%と高濃度のホウ素をDLC内に導入することに成功した。この薄膜は、窒素を高濃度にドープしたDLCよりも1桁低い体積抵抗率を示した。このBドープDLCは、電気化学電極として使用した場合、水電解における水素・酸素発生反応が高い過電圧下でしか起こらず、3Vにわたる広い電位窓を示した。また、フッ化ナトリウム溶液中における電位印加に対しても、腐食は観測されなかった。BドープDLCは化学的安定性の高い分極電極として利用可能であることが明らかになった。高導電性とDLCの示す優れた物理特性を併せもつBドープDLCは、さまざまな分野へ応用可能なポテンシャルの高い基礎材料である。 また、n型DLC半導体のバンドギャップは0.38eVと狭いことから、このバンドギャップを高めることが課題とであった。バンドギャップ拡張のため、DLC中に、sp^3結合のみを形成するSi原子を添加を試みた。この結果、NドープDLCのバンドギャップを2.1eVへ拡張することに成功した。しかしながら、このSi添加NドープDLCは、n型半導体性を示すものの、現在の成膜条件では、キャリア移動度が低い(体積抵抗率が高い)ことが判明した。これは、Si添加DLC半導体中の窒素濃度が高く、DLC薄膜内に微小SiNクラスタ(不導体)が形成しており、キャリア移動度の低下を引き起こしているものと推測される。そこで、バンドギャップが広く、キャリア移動度の高いDLC半導体の実現に向け、DLC内のNおよびSi量の最適化を図る。
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