本研究の目的は、通信容量の飛躍的拡大をもたらす空間モード分割多重通信技術の実現を可能にするため、キーデバイスとなる微細な空間モードの分離・結合デバイスを新たに創出することにある。本年度は、まず、動的再構成可能な全光学的3次元回折素子を光誘起屈折率媒質材料であるLiNbO_3結晶を用いて試作し、その基本動作特性を検討した。微細構造を有するファイバからの出射光を擬似的に空間光変調器(SLM)によって生成し、制御光との干渉によって光誘起屈折率媒質中に体積ホログラム回折素子を生成した。さらに、複数の空間モードを切り替えることで体積ホログラムを多重記録した。その後、このようにして得られた回折素子を用いた空間モード分離実験を行った。多重化された3つの空間モードの中から特定の空間モード光のみを抽出することを目的とした実験を行い、60~70%程度の分離度が得られることを確認した。また、このような体積ホログラム媒質中における光波伝搬を数値的にシミュレーションするためのツールをFFT-BBMによって構築した。空間モードの変動や振動に対するトレランスを考えると、光誘起屈折率媒質には1ms程度の応答速度が必要であり、また、通信波長である近赤外への展開を考えると新規の材料を模索する必要がある。そとで、従来よりも飛躍的に感度の高いSn_2P_2S_6(SPS)結晶を開発し、その基礎特性である結合効率、吸収損失などの諸特性を実験的に測定すると共に、理論解析を行って入射角や偏光に対する特性を明らかにした。また、同材料を用いて柔軟なファイバ間光接続を可能にするための偏光無依存な光接続実験に成功した。さらに、新しい材料として、高速な光誘起屈折率性を有するポリマーを用いた回折素子の実験を行い、空間回折素子として50line/mm以上の解像度を達成した。
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