本研究の目的は、通信容量の飛躍的拡大をもたらす空間モード分割多重通信技術の実現を可能にするため、キーデバイスとなる微細な空間モードの分離・結合デバイスを新たに創出することにある。本年度は、昨年度に引き続き、光誘起屈折率媒質材料であるLiNbO_3結晶を用いた動的再構成可能な全光学的3次元回折素子の検討を進めた。微細構造を有するファイバからの出射光を擬似的に空間光変調器(SLM)によって生成し、制御光との干渉によって光誘起屈折率媒質中に多重化された体積ホログラム回折素子を生成し、これを用いた空間モード分離実験を行った。分離性能を高めるために、光線入射角、入射強度比、通信波長、および、ランダム位相版の特性など、さまざまな観点から最適化を進めた。その中で、特に、実際のファイバにおけるLPモードを想定した実験を行い、多重化に用いる空間モードの組み合わせによって、モード分離の性能が大きく変化することを見出し、最適な組み合わせにおいては、90%以上のモード分離率が得られることを確認した。多重化された体積ホログラムを精密に制御・測定する技術についても検討を進めた。材料面では、空間モードの変動や振動に対するトレランスを考えると、光誘起屈折率媒質には1ms程度の応答速度が必要であり、また、通信波長である近赤外への展開を考えると新規の材料を模索する必要がある。そのため、従来よりも飛躍的に感度の高いSPS結晶および、大きな光誘起屈折率性を有するポリマーを用いた回折素子の試作と実験を行った。また、SPS結晶を用いて、2つの異なる空間モードの接続・結合を行う素子の開発にも成功した。特に、接続する2つの空間モードが異なる場合にも、容易に光接続を実現できる光学系を考案し、動作確認実験並びに数値シミュレーションによる特性解析を実施した。
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